元原発設計技術者 後藤政志さん
中部電力浜岡原発で行われていた耐震設計の要となる、想定される地震の最大の揺れ=基準地震動のデータ捏造(ねつぞう)・改ざん問題。改ざんの背景には何があったのかを元原発設計技術者の後藤政志さんに聞きました。見えてきた“改ざんの動機”とは…。
田中智己記者
中部電力が、浜岡原発の想定される地震の最大の揺れである「基準地震動」データを捏造・改ざんしたことは、耐震設計の根幹を覆す深刻な問題です。原子力規制委員会の審査で不正を見抜けなかったことも重大です。すでに審査に合格して稼働中の原発や、再稼働間近の原発でも同様の問題はなかったのか、再検証する必要があります。
改ざんが行われた基準地震動とは想定される地震の最大の揺れのことです。原子力発電所が地震に襲われた時に、どう揺れて、どこが壊れる可能性があるか、施設の強度を検討し、大規模地震が起きても安全を確保するための要となるデータです。
2023年9月に規制委は中部電が提出した浜岡原発の基準地震動データを「おおむね妥当」と評価し、許可しました。それが改ざんしたデータだったのです。想定される大規模地震が起きたときの揺れを実際よりも小さく見せることによって、耐震設計をやりやすくする狙いがあったのではないかと考えられます。
通常の建物の耐震設計は、大きな地震で建物が壊れても倒壊せず、住民がつぶされて亡くならないよう設計します。
しかし原発の耐震設計は、それとは全く思想が異なります。大地震に見舞われても原発の機器が安全に機能し、事故とならないため、より高いレベルの耐震性が求められます。
私は格納容器の設計をしていた技術者です。原発内部にはさまざまな機器があり、とても複雑な構造になっています。これらの機器や構造物が地震によってどう揺れるかは、一つ一つ異なります。そのためポンプや配管、格納容器、センサーなどで担当者を分けて、耐震設計します。
基準地震動の数字が変われば、こうした一つ一つの機器の設計に大きな影響があります。仮に当初の想定よりも1・5倍の耐震補強が必要になれば、高額な追加費用が必要となります。場合によっては設計が不可能になることもあります。
設計担当者が恐れるのは、基準地震動の数字により、想定される地震への耐震設計が不可能になってしまうことです。もちろん設計が困難になることは本人の責任ではありません。でも、設計ができないとなれば、担当者、その部門の責任とされてしまうのです。一般的には理解されにくい話かもしれませんが、技術の世界、特に原子力の業界では常識的な考え方です。
意図的にデータを改ざんすることは、倫理的にも許されません。しかし自分の担当分野で耐震基準を満たす設計をつくれないなんて言えない。責任を負いたくないという“動機”が働くと思います。
しかし、地震で原発内部の機器が壊れれば、安全機能が働かず、炉心溶融(メルトダウン)が起き、破滅的な事故につながる可能性もあります。電力会社は、安全対策を多重化させる多重防護をしていると主張します。それによって事故の確率は下げられても、最悪の事故が起きる可能性は残り続けます。
責任逃れの規制委発言
改ざんが発覚した後、規制委の山中伸介委員長は記者会見(1月7日)で中部電力を「安全規制に対する暴挙」「倫理観の喪失」と厳しく批判しました。その一方で、安全を審査する規制機関としては「事業者がデータそのものに不正行為を行った場合、見抜くことは困難」と述べています。
この発言は責任逃れに他なりません。これではいくら規制基準を通っても、原発の安全性は保証されません。
事故が起きるリスクは、地震や津波以外にも老朽化や機器の故障などさまざまな要因があります。私たちは、そうしたリスクに対して原発の安全性を制御できていません。しかし原発は自然災害と違って、人類が止めることができます。今回の問題は、原発の安全規制に対する根本的な問いかけをしていると思います。
中部電力・浜岡原発の不正の経緯
捏造・改ざんは2012年から。18年以降は担当部署で問題視する声が多発。しかし、改められず
↓
25年2月
原子力規制委に外部から通報
5月
規制委が中部電に聞取り調査
26年1月
中部電が不適切事案として公表
3月
中部電が報告書を公表
しんぶん赤旗日曜版8月28日付け














