リニア中央新幹線をめぐって、静岡県の鈴木康友知事が静岡工区の着工「容認」を表明し、7月18日にはJR東海と環境保全協定を結びました。しかし、県知事が容認して法令上の手続きが済んだとしても、リニア工事を巡る多くの問題は解決されておらず、南アルプスの豊かな水と自然を守れるかどうかも不透明なままです。
東海・北陸信越総局 前田智也記者
リニア工事“最大の難所”といわれていた静岡工区の着工を巡っては、静岡県とJR東海の間で9年にわたって議論されてきました。県は、前知事の川勝(かわかつ)平太氏の時代に「大井川の水を守る」ことを最優先にして「工事で失われるトンネル湧水の全量戻し」「生態系の保全」「残土処分」の三つについてJR東海との協議を開始。2019年から県側が用意した項目について対話が進んでいました。
24年4月に川勝氏が辞職し、同年5月に新しく知事に就任した鈴木氏は、リニア建設について「スピード感を重視する」と表明。それまで長い時間をかけていたJR東海との対話も急ピッチで進み、県の専門部会からやるべきだと指摘されていた静岡県側の調査も行われていないままに部会を解散。JR東海が行った住民説明会などをもって「住民の理解が進んだ」として着工を容認しました。
毎秒2トン減水
リニア工事によって大井川の水が毎秒2トン減少し、500万トンもの湧水が山梨県側に流出する可能性があります。そもそも、「毎秒2トン」という数字も、JR東海は静岡県側の正確な調査をしていないため、地層が異なる山梨県側のデータを基に予測しているだけです。
これに対してJR東海は、薬液注入や吹き付けコンクリートなどの対策をすることで「毎秒2トンは減らない」と主張しています。しかし、トンネル採掘後に薬液注入した岐阜県瑞浪(みずなみ)市大湫(おおくて)町でのリニア工事(日吉トンネル)では水枯れ被害が発生しているなど、どれも実効性のある対策ではありません。
説明は不十分
住民説明会にも問題がありました。直接対話集会ではなく展示資料を見る「オープンハウス形式」で行われ、JR東海への質問などはすべて個別対応でした。一人ひとりの住民がどんな不安や懸念を感じているのかは分かりません。説明会は、県内22カ所で開かれましたが、計1137人しか参加しませんでした。
説明会に参加した静岡県藤枝市の大石喜恵さん(74)は「説明が専門的すぎて一人で内容を理解するのがすごく大変でした。この説明会だけで、住民の理解が進んだとは言えないと思います」と話します。
調査“後追い”
JR東海は県との環境保全協定締結を待っていたかのように、静岡県側の調査を“後追い”でやろうとしています。しかし、調査を求めていた県の専門部会はすでに解散しています。県は、JR東海が実施する環境保全体制などの取り組みを監視する新たなモニタリング体制(中央新幹線部会)を立ち上げましたが、委員を見てみると先の専門部会でJR東海に調査を求めてきた人たちは外されています。
その一方で、今夏にもJR東海は静岡工区の着工式を行い、年内には本格着工を予定。十分な調査や検討なしで工事を始めてしまえば、さまざまな事件や事故が起きてしまう危険性があります。
「容認」撤回を
県内では、広範な市民グループが「リニア建設ストップ」を求めて署名や申し入れ、現地調査や訴訟など多彩な取り組みをしています。日本共産党静岡県委員会は7月17日に県庁を訪れ、県知事による「容認」表明に対する抗議と撤回、リニア事業そのものの是非について立ち止まって冷静に考えることを求める申し入れを行っています。
「静岡県リニア工事差止訴訟の会」共同代表の林克(かつし)さんは、「JR東海が調査をしていないのに県知事が着工を許可したことで、これからさまざまな弊害が出てくることが予想されます。今後出てくるであろう調査結果や工事現地の実態を県民にアピールしながら、『リニア建設はストップ』の世論を広げていきたい」と語りました。
しんぶん赤旗 日曜版 8月2日付け













