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混迷 大阪・関西万博

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建設遅れ・費用膨張…

カジノと一体推進 維新と自公政権の責任

(写真)万博・カジノ予定の夢洲(奥)をのぞむ=大阪市此花区

2025年4月に大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)で開幕予定の大阪・関西万博で、海外パビリオンなどの建設の遅れが深刻になっています。会場建設費も上振れしており、関連の事業費も含めて、府民・国民の負担がどこまで広がるのかわかりません。民意無視のカジノ誘致計画や大型開発と一体になった夢洲での開催に固執してきた日本維新の会と自公政権の責任が改めて問われています。(藤原直)

 「現在の一番の課題は、海外パビリオンの整備だ」―。9日に開かれた大阪府市の万博推進本部の会議。日本国際博覧会協会(万博協会)の髙科淳副事務総長はそう説明しました。資料では、参加国が自前で建設する形式(タイプA)の建物について「参加国側の設計等の遅れや日本国内の施工事業者の需給逼迫(ひっぱく)にともない、契約が進んでいない状態」と報告しています。

 万博のパビリオンを巡っては、150超の参加国・地域のうち、56カ国・地域が自前で建設する予定ですが、資材価格高騰や人手不足などの影響で建設業者との交渉が難航。建設工事に必要な許可申請書が1件も出されておらず、その前段階の基本計画書を大阪市に提出しているのは、韓国とチェコの2カ国のみにとどまっています。

 工事着手の許可が出るまでの審査には約2カ月かかるとされ、工事開始は早くても9月以降になります。協会の想定する24年7月の建築作業完了まで1年もない状況です。

 21年3月の万博関係府省庁連絡会議の初会合では、22年度までに設計・申請等を済ませ、23年度から工事に移るスケジュールが示されていました。深刻な遅れが生じていることは明らかです。

 今年7月には、万博協会の石毛博行事務総長が「年末までに着工すれば間に合う」との認識を示したことに、日本建設業連合会の宮本洋一会長が「何が根拠なのかわからない」と定例会見(7月21日)で突き放す一幕も。同26日には宮本氏が万博延期について「ひとつの選択肢」と語った産経新聞社のインタビューも報じられました。

万博 政府、維新なりふり構わず

建設労働残業規制外し画策 不払い肩代わりの保険創設

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 万博工事の遅れを挽回するために協会と政府は、なりふり構わぬ動きをみせています。

 7月下旬、万博協会が、万博工事に従事する建設労働者を、2024年4月から適用される残業時間規制の対象外とするよう政府に要望していると報じられました。

 過労死弁護団全国連絡会議は声明で、万博を巡る状況は東京五輪の新国立競技場建設で工期が逼迫(ひっぱく)し、新人の現場監督が過労死した事件の時と「同様の構造だ」と強く抗議。日本労働弁護団は、協会が自ら設定した「調達コード」が禁じる「健康・福祉を害する長時間労働」を強いる危険性があることは「火を見るよりも明らかだ」と厳しい批判の声をあげました。同万博が掲げるテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」との矛盾が極まっています。

 万博協会は、「要望した事実はない」と否定に追われましたが、岡田直樹万博担当相からは「課題の一つとして話に上がっている段階」と事実上認めるような発言も。大阪府の吉村洋文知事は7月28日の記者会見で「現時点ではルールの中で何ができるか考えるべきだ」と上限規制の除外に慎重な姿勢を示さざるをえませんでしたが、同じ日本維新の会の藤田文武幹事長は8月2日、「特例は許容してもいいんじゃないかというスタンスだ」と規制の対象外とすることに理解を示しました。

 7月以降、万博協会は、協会が参加国に代わって発注などを担う「建設代行」を行う用意があるとの考え方を関係国に伝達。一方、経済産業省は海外パビリオンの工事を受注した国内の建設業者が対象の貿易保険を創設したと発表しました。政府が全額出資する「日本貿易保険(NEXI)」が運用する保険で、通常の3分の1程度の低廉な保険料で、発注側の参加国・地域から代金が支払われない場合に、代金の90~100%を補償するといいます。

 大阪府も、パビリオンを建設する外国企業が建設業許可を申請した場合の審査手続きを簡素化し、通常1カ月程度かかるところを約2週間に短縮する措置を発表しました。

 こうした至れり尽くせりの対応が、国民の負担や不利益につながることはないのかが、懸念されています。

関連経費上振れ必至

 費用も膨張しています。国と大阪府市、経済界が3分の1ずつ拠出する会場建設費は当初計画では1250億円でしたが、招致決定後の20年に1850億円に増額。さらなる上振れはあるのか―。この問いについて10日、読売テレビ番組に出演した吉村知事は、「精査している」などと言葉を濁しました。22年2月のロシアによるウクライナ侵略の影響に伴う建築資材の高騰などで上振れは必至とみられています。

 運営費も当初計画では約800億円と見積もられていましたが、23年4月に人件費や物価の上昇と警備体制の強化で1200億円程度に膨らむとの試算が出されました。運営費の大半は入場料収入などで賄うとされていたため、さまざまな無理が出てきています。

 協会は、25年4月から約半年間の開催期間中の来場者数の目標を約2820万人としていますが、これは近隣のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の新型コロナ前の年間来場者数の約2倍もの想定です。入場券は、1400万枚を前売り券で販売し、半数の700万枚(1枚6000円)は経済界に購入をお願いするとしていますが、企業の負担も軽いものではありません。

維新首長 夢洲に固執

 万博の準備が遅れ、経費がかさみそうになっている大きな背景には、立地の問題もあります。会場となる夢洲(ゆめしま)は、もともとゴミと浚渫(しゅんせつ)土でつくってきた人工島です。地盤は、軟弱かつ汚染されており、建築物を建てるには難工事が予想されています。さらに出入り口が限られており、いまは北側の夢舞大橋と南東の夢咲トンネルでしか資材や作業員が運べません。

 2010年代から大阪へのカジノ誘致と万博誘致を提案し、安倍政権の協力を取り付け、夢洲で実施することを決めてきたのが橋下徹元大阪市長や松井一郎元大阪府知事ら維新の首長です。(左上の年表)

 万博の会場建設費に、夢洲のインフラ整備などを含めた「万博・夢洲まちづくり関連事業」の総事業費は、4449億円にものぼります。さらに万博のアクセスルートに位置付ける淀川左岸線2期工事計画の工事費が当初計画の2・5倍の2957億円に膨れ上がるなど、万博とそれを口実にした巨大開発の費用は青天井の状態です。ここには、多額の税金がつぎ込まれています。夢洲への地下鉄中央線の延伸なども進められていますが、吉村氏は「万博は期間限定だが世界的なイベント。(カジノを中核とした)国際観光拠点は永続的なもの。それぞれの相乗効果が生まれる」とその狙いを語ってきました。

 自民党の二階俊博元幹事長は8日、党内の会合で「万博は国家の威信をかけて成功させる必要がある」などと発言しました。自公政権の責任も免れません。

万博理念とかけ離れる

たつみコータロー衆院近畿比例予定候補

建設労働者に対する労働時間の規制を外すことは許されません。労働者の命と安全をないがしろにして、何が「いのち輝く未来社会のデザイン」でしょうか。開催地である夢洲の問題も深刻です。土壌には有害なPCBやダイオキシンも含まれ、地震などの際に漏れ出すことや、災害時に夢洲への2ルートが閉鎖されれば「陸の孤島」になる危険性があります。

 もともと大阪・関西万博は維新の会、政府、関西財界が、カジノ誘致と一体に進めようとしたものです。「国策」として進める万博を口実にインフラ整備などを進めさせ、2025年万博前の開業で、カジノに万博の来場客を呼び込む算段でした。膨らむ建設費は国民の負担になります。「地球環境保全」や「持続可能な社会の実現」といった万博の理念からもかけ離れています。

 (日本共産党大阪府委員会・「カジノ・万博問題プロジェクトチーム」責任者)

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